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万博の島でたくさんの人たちと触れ合い、集まったまちの記憶。

名残惜しさを感じつつ出発した宙船は、ついにぜんつうじまで戻ってきました。


宙船から見下ろしたぜんつうじのまちは、出発のときより少し明るくなったように感じます。

視線を動かすと、ほんのり光っている大楠と、宙船に気づいたまちの人たちが大きく手を振っている姿が目に入りました。


「わー!みんなー!!」


まちの人たちの姿に、ソラとカイトは満面の笑みで大きく手を振り返します。

大楠の手前にゆっくりと宙船が降り立ち、飛び出したソラとカイトにみんなが駆けよってきました。


「おかえり!!」

「ただいま!!」


頭をガシガシ撫でられ、みんなにもみくちゃにされながら、帰ってきた安心感で少し目が潤みます。

彩とりどりに飾りつけられ、たくさんの料理が並ぶ大楠の下に移動すると、宙船の帰還と元気になった大楠をお祝いするお祭りが始まりました。

宙船のいろいろな冒険の話に、子どもも大人も大盛り上がりです。


ひと通り万博の島の話まで終わると、いつの間にか空は暗くなり、星が瞬き始めていました。

あっという間に過ぎた時間に笑いながら、各々片付けて家に帰っていきます。


「くすぴー!また明日!」


最後まで残っていたソラとカイトは、大楠の根本にいたくすぴーに手を振ります。

くすぴーは短い手を一生懸命振って、にっこりソラとカイトを見送りました。




みんなが帰り、ひとりになったくすぴーは、大楠の根本に座りました。

大楠を見上げてにっこり笑うと、大楠の葉がさわさわと優しく鳴ります。

包み込まれる優しい空気に、くすぴーはそっと目を閉じました。




「くすぴーおはよー!・・・ってあれ?」

「どこ行ったんやろ?」


翌朝、家のお布団で寝て元気になったソラとカイトが大楠のもとにやって来ると、くすぴーの姿が見当たりません。

ここにいると思い込んでいた二人は、首を傾げながら大楠を見上げますが、やはりいないようです。

たしかに、ここでまた集う約束まではしていなかったなと思い、ソラとカイトはまたあとで来ようと約束します。

「ぴ」とくすぴーのいつもの声が聞こえた気がしましたが、家族に呼ばれ、二人はその場をあとにしました。


さわさわと大楠の葉が鳴り、二人がいた場所を優しい風が通り過ぎます。

大楠の根本に生えた小さな小さな芽が、そっと撫でる風にふるりと揺れていました。



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